慶應義塾大学通信教育過程の記録

文学部1類(哲学)を2020年3月に卒業!同大学社会学研究科博士課程合格を目指します。

【その他】「1000万円所得隠し?!」男のロマンとシャネルスーツ


私の経営する会社に、
ついに、マルサが入りました。


そんな話ではなく、
どこにでもある日常です。



「来週、あなたの結婚式が終わったら、お父さんとお母さん離婚するね」




「・・・・・!!」



「二人で決めたことなら反対しない。でも、もし、差し支えなければ、理由を教えて貰えないかな?」



「聞いてくれる?お父さん給料隠してたんだよ」


「いくら?」


「月10万円を8年間」


「は??1000万円弱?嘘でしょ!」


「本当なんだよ。ねえ?もう、いいよね?してもいいよね」


「うん。ごめんね。お母さん。」


「なんであんたが謝るのよ!」


家を建て、3人の子供達の大学を卒業させるという、一番大変な時期に、何てことをしたんだ、父は・・・・・。



「私が一番お金かかったから」


「何言ってるの?悪いのはあんにゃろだし!」



電話を切って、放心。
離婚しちゃうのか・・・・・。


サラリーマンなのに、

どうやって給料を隠したんだろう?

明細を偽装したのか?

そんな面倒なこと、出来る人なのかな?



いやいや、それより


何故、そんなことをしたんだろう?


ぼんやり考えました。


「あああっ!あれか?絶対そうだ!あれだ!」


あっさりと、


答えは出ました。


ちょうど、
父が所得隠しを始める3ヶ月程前、

私は大学編入による引っ越しの為、
大量の専門書を古本屋さんに売りました。

結構な金額になりました。
日頃お世話になっている
友人二人を呼び出して、
ラーメン定食(チャーハン+餃子付き)
奢りました。

その話を電話で母にすると

「うわー!私もやってみようかな?あの大量にあるお父さんの本。」

積ん読の男だからいいと思うよ!」

心配ばかりかけている母の喜ぶ声が本当に嬉しかったのです。

1週間後、

「聞いて聞いて!凄いお金になったよ~!売ったお金で、しゅんくんとラーメン食べたんだ!」



一瞬、嫌な予感がしました。



床に置いてある最新の新書はどれだけ売っても大丈夫だと思う。



気が付かないだろう。




「でも、絶対に、売ったら駄目な本もあるからね」



その一言が言えませんでした。

母の弾んだ声をずっと聞いていたかったのです。





「売る前に写メ送って!」そんな時代ならなあ。




その後、母と弟はせっせとBOOK・OFFに通い、父の大量の本はラーメンになり二人の胃袋に消えました。




そして、





3ヶ月後、ついに、その日がきました。




「聞いて、聞いて!ばれちゃったの!」


「ええっ」


「お父さん怒ってて大変なの!


 俺がここまできたのは、


 全て本のお陰だと何故分からないんだって。

 
 私、何言ってるか全然分かんないよ~」




「お父さんは、何を売られて気が付いたの?」




「『司馬遼太郎翔ぶが如く』と『塩野七生ローマ人の物語』すぐに取り戻したけどね」





(やはり!そこか!!)





「そっか、ごめんね」




「そんなに怒ることないと思わない?」





電話を切って、茫然としました。




胸が痛い。





父は家では基本的に怒りません。

会社では机を投げてたそうですが。嘘だ。

家では4年に1回位しか怒りません。オリンピック!




怒るよ、そりゃ・・。




本は・・



父の唯一無二の友達であり、師であり、
夢であり、希望なのです。
飲まない、賭けない、吸わない父の
たったひとつの男のロマンなのであります。





それを・・




次々と売り飛ばされた挙げく、

ラーメンにされ、


長年連れ添った妻と、



溺愛する息子の胃袋に入れられた・・。





だめだ。





私だったら、無理だ。
もう、誰も愛せない。
悲しすぎる。



ああ、無情・・。



絶対に即日逃亡する。




でも、父は、その日、その瞬間、激昂しただけで、全てを水に流しました。





我父ながら何と寛容なんだろう。
心の底から父に詫び、
そして畏敬の念を抱きました。






いやいや待て待て

全然水に流してなかったのか!



とにかく、



どんな結論が出ても、悪いのは私だ。
母には父のロマンは分からない。
それを知っていながら、止められなかった。
多額の学費の工面で苦労をかけている負い目が常にあった。ささやかなことで、母が喜んでくれた。嬉しかった。これくらいいいだろうと思った。


甘かった。


何が出来るか分からないが、子供として、精一杯やれることをしよう。



重いものを背負った気がしました。






そして、結婚式2日前。
再び母からの電話。


「いよいよだね!」


(あれ・・・・離婚は?)


「お父さんにシャネルスーツ買って貰ったんだ!凄くかっこいいんだよ!これ着て待ち合わせ行くからね!離婚?やめたやめた!じゃあ、明日ね!」


シャネルのスーツじゃなくて、
シャネルスーツという形のスーツらしい。
(疎いので全然分からない)


それは、幾らなんだろう?
どんなに高くても1000万円はしないだろう。
10万円もすればいいとこかな?


お母さん、990万円はチャラでいいの?
それにしても、
何て悪い男なんだ!




いや、違う。そうじゃない。




怖いのは、男のロマンだ。




男のロマンを無視して、取り上げて、蔑ろにして、ラーメンにして食べたから、こうなったんだ・・。



結局、隠した月々の10万円は全て本になり1円もないそうです。




怖い・・。




例え、相手のロマンが何であっても。
それが、微塵も理解できなくても。
無条件で尊重しよう。




誓いました。




あれから、どれくらいたったのでしょう。
沈む夕日をいくつ数えたでしょう。




結婚とは!!



何か偉そうなことを言いたいとこですが、
特に何もありません




私も父同様に部屋の書籍を眺める時間が至福でした。ただ、貧乏性なので隅々まで読みます。


しかし、


結婚出産に伴う環境の変で、

自分の部屋が消え、

次に本棚が消え、

本が次々と消えました。



今、手元にあるのは、

三国志と、

大山倍達「強くなれ肉体改造論」

数冊の哲学書

慶応通信の教科書、

おしまい。


数年前、
近所に大規模な図書館が出来ました。
必要な文献は借ります。
慶応の図書館もよく行きます。


そのタイミングで、
手元の本は全部手放しました。

だからといって、

「私は全部捨てたわ!あなたもヒロスエ写真集ほか段ボール全5箱処分したらどうなのよ?」⬅例えば


とは、言えないです。


女は・・と決めつけてはいけないですが、


何となくですが、



現実 >>> ロマン でもいけます。




男のロマンを大事にしよう!




以上です。