君と出会ったのは10年前の夏だった。
マンションの同じフロアに引っ越してきた、
幼稚園児かと思うほど小さな可愛い女の子。
「おはようございますっ!」
爽やかな挨拶や丁寧な言葉使いから、
大切に愛されて育ったんだなって思った。
真っ黒に日焼けして、
いつもバスケットボールを抱えていた。
君は10歳だった。
あれから10年が過ぎた。
色々なことがあった。
高校はバスケの強豪校だった。
君がいかに活躍しているかは顔を見れば分かった。
身長はいつのまにか抜かれてた。
引退後は大学に行く意味が見出せないとぼやいていた。
自分達で合宿や旅行を企画したり、
楽しいことは沢山あるから、
騙されたと思って、
死ぬほど勉強したらいいよと言った。
君の瞳が少しだけ輝いた。
君は見事に第2志望の大学の工学部に入学した。
半年すると、君の顔が急に曇りだした。
あの時、君が辛そうで少し嘘をついたんだ。
楽しいことは勿論あるけれど、
与えられた玩具はいつか必ず飽きる。
自分の手で掴み取る以外ないんだよ。
次に君とゆっくり話したのは去年の今頃だった。
私は、慶應通信の英語3科目受験を控えて、
ゴリラのように英単語を書きまくって覚えていた。
「英単語は、書いて覚える派ですか?」
君はクスクス笑いながら、
「夏休みに短期留学して、目覚めたんです」
瞳を輝かせて話してくれた。
まずは、交換留学生として渡米する。
少しでもいい環境に身を置くために、
1年間、英語を猛特訓する。
「それから・・英単語は大量に丸暗記するよりは、
主要な単語をベースにして
その派生語や語尾変化を覚える方が効率いいですよ」
眩しかった。嬉しくて泣きそうだった。
身長以外にも君には色々抜かれてしまったみたいだ。
そして、君は、渡米した。
君がいなくなって2週間が過ぎた。
iPhoneは米国では高級品だから、
イヤフォンで通話しないと、
犯罪に巻き込まれるって噂を聞いた。
君の携帯は何だったかな。大丈夫なんだろうか。
君は凄く可愛い。変な男の子に絡まれてないだろうか。
ああ、ごめんね。余計なお世話だよね。
10年間君をずっと見てきたんだ。
信じるてるよ。心配はしない。
1年後、君に会える日まで、頑張るよ。
単位は全部取り終わってて、卒論は終盤に入ってる。
君は何を話すんだろう。どこまで行くんだろう。
「夢を追う君へ
思い出して つまずいたなら
いつだって物語の主人公は笑われる方だ
人を笑う方じゃないと僕は思うんだよ」
『 サザンカ 』より
そんな感じで、特にオチも何もないですが、
今は遠い空の向こうにいる
近所の可愛い人を想って 頑張ろうと思います。
新たな旅立ちを心から応援しています。