慶應義塾大学通信教育過程の記録

文学部1類(哲学)を2020年3月に卒業!同大学社会学研究科博士課程合格を目指します。

デジタル黎明期を駆け抜けたオジサンの話

タイトルは自分のことではありません。
いつかその話も書きます。


「デジタル黎明期」は中学〜高校生。

インターネット人口が2割を超え、爆発的なIT化が間近に迫った1999年春。

情報学部のキャンパスにいました。

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「理数系全部ダメで、パソコン触ったことなくて、何しに行くん?学費も高いし絶対反対!」

合格して進学先を告げると猛烈に反対された。

両親は価値基準が真逆。
母は「感情」に。父は「理論」に訴える。

例えば、幼い頃、剣道を習いたかったが、送迎や道具の購入など、そこそこハードルが高かった。

丸腰でいけば恐らく反対されるだろう。

そこで、母には
「勉強もお手伝いも頑張る。心も身体も鍛えて今よりもっともっと成長したい」

「そんなに言うならおやりなさい」


父には、
「絶対に剣道の時代がくる。テレビ中継も始まった。道場には世界に10人もいない範師がいるから見る価値あり!」

「それは面白そうだな!送迎は俺に任せろ」

このように、費用の負担を強いる「習い事」や「進学先の決定」には、常に2パターンを用意して説得にあたってきた。

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進学に対しても、2パターンを用意した。

母はあっさりと認めてくれたが問題は父。

「お前が進学することで俺にどんなメリットがあるか論理的に説明してくれ」

予想通りムチャブリをしてきた。

「お前が何を学んで将来にどう生かすかを教えてくれ」なら分かるけど、

「俺のメリット」とか。正気の沙汰とは思えない。

しかし、運良く当時の父は経営企画部長として、社内のIT化を一手に担っていた。

「ドックイヤーと呼ばれるこれからの時代、IT化の成功は企業の大きな躍進につながります。

大学で学んだ学術的な観点から最先端の情報を随時お届けすることは、会社の発展に寄与するに違いありません」

「さらに、学内にはプログラマー、CGクリエイターなど高い技術を持った学生が大勢います。

そういった人たちとの交流を通して最新のトレンドをお伝え致します」

的なことを、言って懸命に説得した。

「面白そうやな!よし、次の休みに家を探しに行こう」

父は、変わっていたが、気持ちの良い人だった。

教育的な観点は一切なく、心の底から「俺のメリット」と言っているのだが、

説得が終わると、感情や情報が整理されて、目的が明確になりやる気が出るから不思議だった。


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そうやって、なんとか、スタートにたどり着いた。

入学前にとりあえず、パソコンを買った。
大人が3〜4人入れるほど大きな箱が届いた。
接続はそれほど大変ではなかった。
ジャジャーンと音がして「Windows98」が開いた。

それからの日々は、10万文字くらいになるので省略します。

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昨日、本を読んでいたら、

「IT時代の前半戦、20年は終わりました。さて、これからが後半戦」

そのフレーズが、なぜか心に深く突き刺さって、

少年アシベのスガオくんみたいに、

涙が止まらなくなった。

20年の前半戦。終わったのか。一瞬だったな。

大学時代の友達は、Googleなど最前線で活躍していたり、1000人規模の開発プロジェクトを束ねていたり、大学教授になっていたり。

最近、仕事を通じて話す機会が増えて、少し圧倒されていた。

「あんたは何してたん?親の言う通り、大学は無駄やったんちゃうの?」

自分で自分に楔を打ち込む。ドロドロと血が流れる。

「やはり、そうなのだろうか・・」

言葉に詰まる。


そんな時、何処かから声がした。

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「あなたは、プログラミングもアルゴリズムも全然できなかった。技術屋にはなれなかった。

でも、社内システムの更新やソフトウェア導入、役員のパソコン教室など会社では重宝されてたよね。

大学の友人達のように最前線で大暴れできなかったけれど、

いつだって、与えられた環境で、IT化の先にある未来を語って、

社内や取引先が変化をポジティブに受け入れる空気を作ってきた。

社会人になって、辛いことや苦しいことがいっぱいあったけど、

大切な仲間と出会って、

幸せだと思える瞬間が数え切れない程あっんじゃないの?

それでも駄目なの?」

ごめんね。そうだよね。

他人と比べても仕方ない。

出会ってきた大切な人達の笑顔を思い出す。
柔らかくて温かい。会社とは思えない部活感。

「大丈夫ですよ!今やらなきゃです。稟議書きます!」
子供みたいに威勢のいいことばかり言ってたな。

何も形に残せなかったなんて言うけれど、意外とそうでもないんじゃない?

そんなこと、言われたら、もう、圧倒的に幸せな20年だった。

ふと、工学部出身の父もエンジニア時代に大きな挫折を味わっていたことを思い出して苦笑した。

「大学で学んだことなんて仕事で使えない」

父の口癖を思い出す。

だから私に「何を学びどう将来に生かすのか」とは聞かなかったのか。

真意は分からない。

でも、「俺のメリット」を満たそうと、あり得ないくらい必死で勉学に励んだ日々は、

一生の友情と素敵な20年を運んでくれた。

父には本当に感謝している。

「あれとこれインストールして、それを保存して、そしたらいい感じに動くよね。学校行ってる間に全部お願いしていい?昔情報学部やったんでしょ」

「そんなマンモス追いかけてた時代の話をされても」

令和の小学生なに。パソコンを前にため息をつく。

息つく暇もなくこれから後半戦。