私の経営する会社に、
ついに、マルサが入りました。
そんな話ではなく、
どこにでもある日常です。
「来週、あなたの結婚式が終わったら、お父さんとお母さん離婚するね」
「・・・・・!!」
「二人で決めたことなら反対しない。でも、もし、差し支えなければ、理由を教えて貰えないかな?」
「聞いてくれる?お父さん給料隠してたんだよ」
「いくら?」
「月10万円を8年間」
「は??1000万円弱?嘘でしょ!」
「本当なんだよ。ねえ?もう、いいよね?してもいいよね」
「うん。ごめんね。お母さん。」
「なんであんたが謝るのよ!」
家を建て、3人の子供達の大学を卒業させるという、一番大変な時期に、何てことをしたんだ、父は・・・・・。
「私が一番お金かかったから」
「何言ってるの?悪いのはあんにゃろだし!」
電話を切って、放心。
離婚しちゃうのか・・・・・。
サラリーマンなのに、
どうやって給料を隠したんだろう?
明細を偽装したのか?
そんな面倒なこと、出来る人なのかな?
いやいや、それより
何故、そんなことをしたんだろう?
ぼんやり考えました。
「あああっ!あれか?絶対そうだ!あれだ!」
あっさりと、
答えは出ました。
ちょうど、
父が所得隠しを始める3ヶ月程前、
私は大学編入による引っ越しの為、
大量の専門書を古本屋さんに売りました。
結構な金額になりました。
日頃お世話になっている
友人二人を呼び出して、
ラーメン定食(チャーハン+餃子付き)
奢りました。
その話を電話で母にすると
「うわー!私もやってみようかな?あの大量にあるお父さんの本。」
「積ん読の男だからいいと思うよ!」
心配ばかりかけている母の喜ぶ声が本当に嬉しかったのです。
1週間後、
「聞いて聞いて!凄いお金になったよ~!売ったお金で、しゅんくんとラーメン食べたんだ!」
一瞬、嫌な予感がしました。
床に置いてある最新の新書はどれだけ売っても大丈夫だと思う。
気が付かないだろう。
「でも、絶対に、売ったら駄目な本もあるからね」
その一言が言えませんでした。
母の弾んだ声をずっと聞いていたかったのです。
「売る前に写メ送って!」そんな時代ならなあ。
その後、母と弟はせっせとBOOK・OFFに通い、父の大量の本はラーメンになり二人の胃袋に消えました。
そして、
3ヶ月後、ついに、その日がきました。
「聞いて、聞いて!ばれちゃったの!」
「ええっ」
「お父さん怒ってて大変なの!
俺がここまできたのは、
全て本のお陰だと何故分からないんだって。
私、何言ってるか全然分かんないよ~」
「お父さんは、何を売られて気が付いたの?」
「『司馬遼太郎の翔ぶが如く』と『塩野七生のローマ人の物語』すぐに取り戻したけどね」
(やはり!そこか!!)
「そっか、ごめんね」
「そんなに怒ることないと思わない?」
電話を切って、茫然としました。
胸が痛い。
父は家では基本的に怒りません。
会社では机を投げてたそうですが。嘘だ。
家では4年に1回位しか怒りません。オリンピック!
怒るよ、そりゃ・・。
本は・・
父の唯一無二の友達であり、師であり、
夢であり、希望なのです。
飲まない、賭けない、吸わない父の
たったひとつの男のロマンなのであります。
それを・・
次々と売り飛ばされた挙げく、
ラーメンにされ、
長年連れ添った妻と、
溺愛する息子の胃袋に入れられた・・。
だめだ。
私だったら、無理だ。
もう、誰も愛せない。
悲しすぎる。
ああ、無情・・。
絶対に即日逃亡する。
でも、父は、その日、その瞬間、激昂しただけで、全てを水に流しました。
我父ながら何と寛容なんだろう。
心の底から父に詫び、
そして畏敬の念を抱きました。
いやいや待て待て
全然水に流してなかったのか!
とにかく、
どんな結論が出ても、悪いのは私だ。
母には父のロマンは分からない。
それを知っていながら、止められなかった。
多額の学費の工面で苦労をかけている負い目が常にあった。ささやかなことで、母が喜んでくれた。嬉しかった。これくらいいいだろうと思った。
甘かった。
何が出来るか分からないが、子供として、精一杯やれることをしよう。
重いものを背負った気がしました。
そして、結婚式2日前。
再び母からの電話。
「いよいよだね!」
(あれ・・・・離婚は?)
「お父さんにシャネルスーツ買って貰ったんだ!凄くかっこいいんだよ!これ着て待ち合わせ行くからね!離婚?やめたやめた!じゃあ、明日ね!」
シャネルのスーツじゃなくて、
シャネルスーツという形のスーツらしい。
(疎いので全然分からない)
それは、幾らなんだろう?
どんなに高くても1000万円はしないだろう。
10万円もすればいいとこかな?
お母さん、990万円はチャラでいいの?
それにしても、
何て悪い男なんだ!
いや、違う。そうじゃない。
怖いのは、男のロマンだ。
男のロマンを無視して、取り上げて、蔑ろにして、ラーメンにして食べたから、こうなったんだ・・。
結局、隠した月々の10万円は全て本になり1円もないそうです。
怖い・・。
例え、相手のロマンが何であっても。
それが、微塵も理解できなくても。
無条件で尊重しよう。
誓いました。
あれから、どれくらいたったのでしょう。
沈む夕日をいくつ数えたでしょう。
結婚とは!!
何か偉そうなことを言いたいとこですが、
特に何もありません
私も父同様に部屋の書籍を眺める時間が至福でした。ただ、貧乏性なので隅々まで読みます。
しかし、
結婚出産に伴う環境の変で、
自分の部屋が消え、
次に本棚が消え、
本が次々と消えました。
今、手元にあるのは、
三国志と、
大山倍達「強くなれ肉体改造論」
数冊の哲学書、
慶応通信の教科書、
おしまい。
数年前、
近所に大規模な図書館が出来ました。
必要な文献は借ります。
慶応の図書館もよく行きます。
そのタイミングで、
手元の本は全部手放しました。
だからといって、
「私は全部捨てたわ!あなたもヒロスエ写真集ほか段ボール全5箱処分したらどうなのよ?」⬅例えば
とは、言えないです。
女は・・と決めつけてはいけないですが、
何となくですが、
現実 >>> ロマン でもいけます。
男のロマンを大事にしよう!
以上です。