慶應義塾大学通信教育過程の記録

文学部1類(哲学)を2020年3月に卒業!同大学社会学研究科博士課程合格を目指します。

【その他】今日、学校に行きたくない誰かへ

「そんな酷いお友達がいる学校に
あなたが行く必要はありません」

「逃げてもいいの?」

「逃げるんじゃありません!場所を変えるのです」


いじめられて、
学校に行きたくないと訴える母娘のシーンでした。

うわぁ、ついに、これが主流になったのか・・
思わず息を呑みました。

堀江貴文さんも、

「いや、別に勉強だけ考えたら、
学校なんか行く必要全くないですからねっ!」

と、ある番組で仰っていました。
確かに・・あらゆるツールを駆使すれば、
今の時代、それはそうやなと激しく同意・・

まあ、それは、そうなんやけど・・・


そう、こんな爽やかな秋晴れの休み時間でした。
図書館で借りた本を貪り読んでいました。

その時、ページに影がかかりました。

「ねえ!ゆいちゃん、明日から祐子のこと無視ね」
声でクラスのボスだと分かりました。

「えっ?なんで無視なん?理由は?」
本から顔を上げずに返しました。

「理由?ええっ?ほらっ祐子臭いから!」

くっだらない。読書の邪魔せんでおくれやす。

「祐子ちゃんは臭くないから無視しない」

さらに、顔を上げずに言い切った瞬間、
教室中の空気が凍りついたのを感じました。

「ふーん?もういい。明日からゆいちゃん無視ね」

ようやく顔を上げた時は、全てが手遅れで、
怒り震蘯のボスと付人達が踵を返していました。

嘘やろ?明日から私無視されるん?

小学校4年生女子の世界は、
いつの時代も、厳しいのです。

翌日から容赦なく無視が始まりました。

まあ、いけるんちゃう?
別に一人でも平気やしね?

と淡い期待もありましたが、

選択として一人でいることと、
存在自体を抹消されることは、

全く意味が違うのです。

1番きつかったのは、
仲が良かった友達に話しかけた時
申し訳なさそうに、無言で離れて行った瞬間でした。

男子達が
「お前何したん?大丈夫か?」と話しかけてきました。
「ちょっとっ!」「うわぁすいません!」
ボス達に睨まれ、離れて行きました。

もう、だめなんだ。
1人なんだ。いや、私はいるけどいないのか?

今、私は、存在してないの?

今まで味わったことのない、
凍えるような風が心の奥を吹き抜けました。

もう、無理。

トイレで泣き崩れました。

3日頑張ってみたけれど、

これが永遠に続くなら、私は、明日を、

生きられない。

今を耐えられない。

激しい嗚咽を繰り返していると、
何処かで、黒い稲妻が光りました。

「っていうか、なに?何で私はこんな目に遭ってるん?
誰か傷付けたっけ?何か悪いことしたっけ?
祐子ちゃんは臭くない。だから無視しない。
何があかんのや?それの?無視ってなに?
いじめってなんなん?
私はこんなことされる為に生まれてない。
家族に言えんような目にあうとかありえん。
絶対許さん!100倍、いや、1000倍返しや!」

腹は決まりました。

ただ、
喧嘩が強いわけでも、弁がたつ訳でもないので、
自分のやり方で解決することにしました。

毎日提出する日記で告発しました。

感情は一切抜いて、
「ゆいちゃん、祐子無視やから」から始まり
トイレで絶望するまで時系列で詳細に記録しました。

もう、自分が触った机をバイキン扱いされたとか
一切合切全部です。

最後に
「4年2組での楽しい毎日を期待していたのに、こんなことになり、とても悲しいです」
サラっとしめました。

いってこい!

願いを込めた日記は先生の元に旅立ちました。

帰りの会終盤になり、
「女子は全員必ず残って下さい」
神妙な面持ちで先生は言いました。

50代半ば感情表現豊かなベテランの先生でした。

「まず、これを読みますから聞いて下さい」

静かな教室で日記は読み続けられました。

「あきちゃんにおはようと言いました。
あきちゃんは私から目をそらして離れて行きました。
次に親友の由美ちゃんなら大丈夫だろうと
おはようといいました。由美ちゃんは走って・・」

ううっ、先生は泣き出しました。

お涙頂戴は自分が惨めになるから、
事実だけを羅列したのに・・なぜ、泣くんだ?

誤算でした。

ありのままの事実の方が
より残酷なのかもしれません。

先生につられて、女子達も泣き出しました。
教室中の嗚咽が止まりません。

泣いていないのは、私と祐子ちゃんだけです。

祐子ちゃんは支援級にも時々行っていました。
言葉の遅れが少しあったのです。

私がごめんの合図を送ると、
ふにゃんと笑ってくれました。

やっぱり、私は祐子ちゃんが好きだ。

やり方は幼稚で失敗かもだけど、
全ての選択に後悔はないぞ。

日記は読み終わりました。
女子達の嗚咽は止まりません。

私は手を挙げて、勝手に喋り出しました。

「今日の体育、ポートボールだったんですけど、
1組との対決めっちゃ盛り上がったんです」

「だから、今日から放課後毎日、
1組とポートボール対決しませんか?」

唐突に切り出した話にみんなポカンとしています。

「ゆいちゃん、無視されて頭おかしくなった?」

視線が痛い。

何で誰かをターゲットに無視やいじめをするのか?

何故4年生の今なのか?

おそらく暇だからじゃないのか?

学校に慣れて退屈だから、
刺激が欲しいんじゃないのか?

だったら、特定の1人が傷付くことなく、
エネルギーを発散させる何かがあれば解決するんじゃないの?

おおっポートボールか!いいやん!これいいやん!

という、自分なりに熟考した案だったのですが、
それを説明する程のコミュニケーション能力はなく、
いきなりぶつけるという賭けにでました。


目的は女子達を泣かせることじゃない。
2度と無視が起きないシステムの構築なのだ。

その糸口が掴めるまで、

今日、私は、絶対にこの勝負を降りない。

泣いて済むと思うなよ。


「面白そう!ゆいちゃんナイス」

「先生、1組に言ってきていいですか?」

意外にもボス達が真っ先に賛同してくれました。

こらっ!まず、私に謝らんかい!と思いつつ、
明日から普通の日常が戻ることに

涙が出るほど安堵しました。


そして、熾烈なポートボール対決は半年間続きました。
あまりの真剣さに泣きわめく場面なども度々ありましたが、2組女子の団結力は半端なく、いじめや無視をする余裕はなくなりました。



これは、運が良かったのです。

先生が良い人だった。

ボスも根は悪い子じゃなかった。

幸運が重なったのです。


そう、逃げてもいいと思うのです。

勉強だけなら、
学校行かない方が効率いいかもしれないです。


でも、なんだろう、悔しいと思ったら、
許すまじと思ったら、
ワンチャンに賭けてみてもいいかなという気も
するのです。

いやいや、危険だったら絶対無理はしなくていい。
逃げていい時代なんだから。

でも、その、今、
胸に燃えたぎっている気持ちだけは、
その情熱だけは、

失くさないで下さい。

いつの日か、大人になって、
こうしたい、ああしたいと願う未来や、

希望を、

覚えていて下さい。

それを、いつか、
一緒に叶えましょう。