鳴かぬならそういう種類のホトトギス
元ネタが分からないし、解釈が間違っているかもなので、あくまで私見です。
先週、父方の祖父の葬儀があった。
海軍出身の祖父は93年の生涯を静かに全うし、
家族葬にも関わらず多くの人が訪れ、
悲しみのなかにも穏やかな時間が流れていた。
しかし、恥ずかしくて詳しくは書けないが、父のあまりにも常識を逸脱した行為、
親の葬儀でありながら悲しみのかけらもみられない振舞いに、
小学生の長男は目をシロクロさせ、50年以上連れ添った母は相変わらず怒り狂っていている。
いつものように、「父のこの行動は、こういう思考からきていて、悪意は一切ない」
「父は大事な部品がいくつかないだけで、冷たいとか人でなしとか言っても響かないし、無駄なエネルギーを消耗するだけ」「全く悲しくないわけではない」
ひとつひとつ丁寧に解説した。
「なるほど。そう言われると・・。でも、なぜ分かるの?」
「え?自分もそういう血を引いているからだよ。容姿だけでなく、思考や感情も遺伝するのだよ」
「ええっ。やばくない?お母さん大丈夫なの?」
「大丈夫ではない。特に女の世界は共感が全てだからなあ」
「そうだよね。よく今まで頑張って生きてきたね」
「ありがとう・・・小学生に労われるとは」
「何かエピソードとかあるの?」
「うーん。お葬式もそうだけど、卒業式もそうだし、あらゆる別れの場面で絶対泣かないとか。
父ほど極端ではないけどね。
例えば、子どもの頃、転勤族の親友とのお別れがそれぞれ2度ほどあったんだけど、その時も全く泣かなかったかな」
「え?親友なんでしょ?」
「うん、毎日一緒に登校して、家族ぐるみで旅行も行ったし、放課後は、いつも秘密基地で遊んでた」
「なんで?普通、悲しくて泣くよね。どういうこと?」
「え?子供の転校なんて9割方親の仕事の都合なんだから、辞令がでたら、子供にできることなんて何もないよ。
それに、転勤族なら任期もほぼ決まってるし。別れがくると知った上で、どれだけのことができるかっていう話でしょう。
まだ幼い子供がいきなり知らない土地に連れてこられて、さあ!お友達作って頑張りなさいなんて。心細いに決まってるでしょ。
だから、毎日全力を尽くした。これ以上できませんって思えるほどその子のために頑張った。
そのうち、私以外の友達もたくさんできて、少し寂しかったけど、友達は多い方がその子は幸せなんだって言い聞かせてた。
それに、何も知らない場所に行くわけじゃない。もともといた場所に戻るケースが多いから、それで良いんだよ。
私の任務は終わったんだよ。限られた時間のなかで幸せに過ごしてくれて良かった。それなのに、なぜ、相手が泣くのか分からなかった。他の友達のことで泣いているのかと思ってた」
「え?それ、本気なの?見知らぬ土地で最初にできた友達なんだから、お母さんとの別れが悲しくて泣いているに決まってるでしょ。なんでそんなことも分からないの?」
「え、そうかな。でも、仮にそうだったとして、じゃあ、私も悲しいですって、わんわん泣いて誰か喜ぶのかな。それって、意味があるかな。
今日どんなに悲しくても、明日はやってくるんだから、少しでも前を向いてもらった方が良くない?こっちがメソメソしてたら、去りゆく相手も辛いでしょう。だから、ずっと笑ってた」
「そんな理由で泣かなかったの?理屈は分かった。でも、お母さんの気持ちはどうなるの?悲しいとは思わなかったの?」
「泣かないだけで、今まで当たり前にあった時間やぬくもりが、ある日突然、跡形もなく消えるんだから、膝から崩れ落ちるほどの喪失感だよ。今思い出しても、目眩がする。流石に、そういう感情はある」
「嬉しいとか楽しいとかは表現できるんでしょ。なんで悲しみや寂しさはダメなの?
2度と会えないかもしれないのに。小学生の女の子だったんでしょ、好きなだけ泣けばよかったのに」
「いや、だから、マイナスな感情表現なんて、誰のためにもならない。泣く泣かないなんてシステムの問題だから、制御すればいい。あと、人前でメソメソするなんてカッコ悪いから絶対に泣かない」
「・・・」
ついに黙られた。呆れたのだろう。
違う。そうじゃない。その時、その瞬間は、人前では、絶対に泣かないだけ。
自分の場合は、必ず、1ヶ月以上遅れて、後で必ず1人で泣いている。
自転車で10分ほどのところにある河原。
「秘密基地を作ろう」ニヤリと笑いあった時の湧き上がるような高揚感。
こんな時間が続けばいいのにと思っていた。
本当はずっと一緒にいたかったのに。
笑顔の裏で飲み込んだ苦しさと寂しさと悔しさが込み上げる。
心から血が出ている。
砂に顔を埋めて、わんわん泣いた。
泣く理由なんてないのにな。何の意味もないのにな。
この後に及んで、まだ、意地を張っている。
そうやって、子供の頃は、秘密基地で1人で泣いてた。
大人になってもそういうの変わらない。
その瞬間はいつだって笑顔で手を振ってしまう。
というわけで、いずれは鳴く(泣く)けど、目の前で待たれても絶対泣かないし、まして、泣かせてみせようと張り切られても、殺してしまえとか言われても困る。
自分は、遅れてこっそりタイプだけど、そもそも、父のように悲しみを感じにくいタイプもいるだろう。
「冷たい」とか「人でなし」とか。そう思われても仕方ないんだけど。
でも、人になんと言われようと、守りたい領域があるのだ。
できないことはできない。
他のことはちゃんとするから、それくらい許して欲しい。
元ネタを調べても分からないし、解釈が間違ってるかもだけど、
もし「鳴かないホトトギスもいるよね」「このホトトギス、かなり変だけど、別に良くない?」
そういう世界もアリなら、良い時代がきたのかなという気がする。
未来に、ちょっとワクワクする。